ロータス7で高速道路を駆け抜ける男。場所はロンドン。彼は英国諜報部の腕利きだ。車は地下へと向かい、男は上司へ辞表を叩き付ける。サバサバした表情で自宅へ戻り、バカンスへ出かける準備をする男。しかし彼には尾行が付いていた。
ガスで眠らされ拉致された男が到着したのは、誰も知らない謎の村だった。皆は自分の正体を隠し、お互いを番号で呼び合う。彼の番号は6と告げられた。そしてナンバー2は言う。情報をよこせと。自由も名前も奪われた男の脱出劇が幕を落とす。
The Prisoner。40年以上前に英国で作られたテレビシリーズで、今も熱狂的なファンをもつカルトドラマ。そのオープニングシーケンスだ。あらためて見直しても素晴らしい楽曲とカメラワークにホレボレする。ちなみにこのシリーズのサントラ、私はいまだに愛聴している。
そのプリズナーのリメイク版が、なんと全6話のミニドラマになって、11月15日に放映されるらしい。といってもアメリカのケーブルテレビAMCの話なので観られないけれど。
いやあ懐かしい。これを初めて観たのは小学生の頃(ああ、アムロ、歳がバレる…)。某国営モドキ放送局でやってました。そのとき受けた衝撃はハンパじゃなくて、「海外ドラマってのは、こんなにすごいのか」と戦慄した覚えがあります。まあ今にして思えば、「こんなすごいドラマ」はこれくらいだったんですが。
一見するとスパイ物かと思わせるストーリー。しかし実際は、上司×部下、会社×労働者、社会×個人、民主主義とは、自由とは、自分とは、といったメッセージがちりばめられており、後半は不条理で不可解な舞台劇のノリで話が進む。「個」を失わせ「集団」へと帰属させようとする「権力者」と、「自分」を主張し続ける主人公が最終回で迎える結末は、イギリス人じゃないと語れない皮肉に満ちていて、「やっぱ民主主義の歴史が長い国はスゲえ」と溜め息。こんなもの、ジャリタレの恋愛ドラマしか作らなくなった日本じゃありえない。
ここまでトンデモない作品だと、リメイクやるにも勇気がいるのか、これまでも何度か話が上がっては消え上がっては消え。そしてついに公開にこぎつけたのは、もしかして主人公のパトリック・マクグーハンが1月に亡くなったからかしらん。予告編を見ると、微妙にミステリーにシフトした話のようで、24とかTakenとか、ああいうノリになってしまうのだろうか。
それでも、あえてプリズナーをリメイクしたことにはエールを送りたいのだ。見る前から批判してたんじゃあ日本人が得意なコップの中の嵐。ディレッタントの遠吠え。衰退した日本文学だ。
プリズナーを現在の感覚で作るとどうなるか、オジサンは楽しみにしていますよ。