ブラックなのはキミかもしれない

「この保存ダイアログあるでしょ」
「はあ」
「保存するかって聞いてくるから『はい』をクリックすると…」
「はあ」
保存されないじゃん!『いいえ』なら保存されるけど。逆でしょ?なんでよ」
「ああ、これはですね。最初にリリースしたとき間違えてまして、皆さんそれに慣れておられるようなのでそのままにしてあります」

「………」(あまりといえばあまりの回答に気絶しそうになる私)

システム担当者と私の禅問答は続く。

「…んと、それと、このデータ入力ダイアログでさ」
「はあ」
「何も入力せずにOKボタンをクリックするとエラーでクラッシュするでしょ」
「そんなことする人いませんから」(キッパリ)
「いや、いませんからって…」
いるんですか?
「………」(レッドショルダーのテーマが頭に流れ始める…)


「それに、この画面てボタンが8個もあるでしょ」
「ええ」
「データはまず2番目の欄に入力してこのボタンをクリック、つぎに4番目をクリック」
「はあ」
「他のは押したり押さなかったりで最後はOKをクリックって、なんでこんな変な順番なの?」
「それはですね、このダイアログボックスの仕様を指示して頂けなかったからでして。こちらで推測して作るしかなく」
「でも3番目の欄に入力してボタンをクリックすると2番目のデータは消えるじゃん」
「そうなんですか?」
「そうだよ。だからもう一度2番目のデータを入れなきゃなんないんだけど、気がつかずにOK押しちゃうと後から編集しなくちゃいけない」
「あとから編集できるから大丈夫ですね
「いや、そういう問題じゃなくて」
「はあ」
「入力順に依存関係があるのに、並び順と対応してないでしょ」
「依存って何ですか?」
「………」(ふたたび意識が薄れる)


(気を取り直して)「それと、このファイル名を入力する欄」
「はあ」
「名前の一部を消そうと思ってさ。こう、名前の上をマウスでドラッグして選択しても、全部選ばれちゃうじゃん」
「それが?」
「それがって…。名前変えるの面倒だと思わない?」
「カーソルキーを押していただけると選べると思いますよ」
「だからなんでそんな仕様になってるの?」
「これはドットネットの制限なので修正できません
「………」(アンインストールが頭の中をこだまする。今のボクには理解できない~♪)


予算三千万をかけて社長の肝いりで構築されたシステムの実態である。あ、もちろん架空の会社の話だし、こんな会話も実在しませんから。全部空想話なんでよろしく。

あれですよ。社長が営業に騙されて、社内システムを一新した結果でございますよ。おかげさまで誰も文句を言えないでござるの巻き。

なんだろうね。社長業ってのはやっぱり孤独なんだろうね。一緒に競馬に行ったり愚痴を聞いてもらったりするとコロリと騙される。定期的に女の子がやってきて社長のメンテだけは欠かさないってんだから、さすがジャパニーズビジネスマン。技術はないが知恵はある。

映画『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』が公開されるそうだけど、内容は知らない。あれでしょ。ぽっと出の青年が青春とか成長とかを嘆いたり謳歌して、彼女が病気で死んで遺骨をまいたり泣いたりやっぱり好きだったりして、ボクはボクだけのボクで大人になったよ見て見て見てとか自己中万歳な話なんでしょ?

って、おまいら。この映画で勇気をもらったとか言ってるおまいら。本当の被害者は、こういう会社のクズソフトを使わされてる側なんだぞ!こっち側に 来てデータを入力してみろや。いや、してみてください。リリース前にテストぐらいやってください。ホントもう勘弁して下さいよ…架空の話だけどさ…

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